Boys, apply for 基盤B
今年も科研費の季節が来た。去年もこの時期に科研費の話題について書いたところだが、科研費の申請には36万円の研究費が必要という話 - BL21DE3のブログ今年も科研費の記事を書く。
結論から言おう。若手は基盤Bに応募しよう。
なぜか。一言でいえば「国際・若手支援強化枠」があるからである。
2025年度の公募から国際・若手支援強化枠(ここでは以下国際若手枠と呼ぶ)が創設されたのは研究者番号をお持ちの方であれば知っている人も多いと思う。これは基盤Bと基盤Cの応募の内、採択のボーダーライン上にある課題で、これも2025年度の公募から評価対象になった国際性の評価が高い、若手による研究を追加で採択するという仕組みである。ただ、この国際・若手支援強化枠、具体的に年齢が何歳までを対象としていて、どれくらいの枠が用意されたのか、いまいちわからない。みなさん知りたいよね?私は知りたい。
そこで日本学術振興会(学振)の公表してるデータから国際若手枠の実態を推測したい。まず、全体の採択数を確認しよう。JSPSが公表してる配分状況のデータ(https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_27_kdata_g_4211/3-1-1_r7_1219.pdf)から、国際若手支援強化枠設定前の2024年度は基盤Bが3327件、基盤Cが12551件採択されており、設定後の2025年にそれぞれ3290件と12756件に変化している。
お分かりいただけるだろうか。基盤Cはともかく、基盤Bは採択件数が減っている。応募件数は増えたのに。国際若手枠は令和6年度補正予算で導入されたので(https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_g_2834/r7shiryou01.pdf)既存枠に加えた追加枠的な感じかと思いきや全くそんなことはなく、既存の枠の一部が振り替えられただけである。
では実際のところ、どれくらいの枠が国際若手枠に振り替えられたのか。私が調べた限り、JSPSはこの点をどこにも明示していない。なんか都合の悪いことでもあるんだろうか。
そもそも何歳までが若手なのか。科研費の種目の一つであり、科研費応募者界隈が「若手」と聞いてまず思い浮かべる若手研究は博士号取得後8年までを対象としており、年齢で言うと大体35,6歳になる。また過去には38歳までだった。実際のところ、この資料(https://www.mext.go.jp/content/250122-mxt_gakjokik-000039818_1.pdf)を読む限り、40歳未満が対象のようである。
その上で、40歳未満の基盤B,Cの採択状況がどのように変化しているか。そんな40歳未満に限った採択状況なんてあるわけ……ありました。JSPSのサイトには科研費関連のデータが公表されている(科研費データ|科学研究費助成事業(科研費)|日本学術振興会)。 このページはバナーからのリンクで辿り着けるので到達容易だが、実はここには40歳未満の種目別採択率がわかるようなデータはない。「公表資料の電子ファイルはこちら」と書いてある地味なリンクから辿り着けるExcelファイル「年齢別 配分状況表(令和○年度 新規採択分)」(あるいはそれを集約したPDF)が目的とする40歳未満の基盤B,C採択率を含むファイルだ。
それでは中身を見てみよう。国際若手枠導入2年前の2023年から導入1年目の2025年までの採択件数の推移は次のとおりである。

見ての通りだが、基盤B,Cいずれも約150件、採択件数が増加している。このことから国際若手枠は150件程度なんだろうと推測される……なんてことはない。確かに150件の増加は国際若手枠によるものと考えられるが、全体の採択件数が据え置きである以上、国際若手枠で枠を奪われて通常枠で採択されなかった人がいるはず。そして国際若手枠設定前から採択されていた若手がいることを踏まえると、実際は150件を超える国際若手枠があると考えられる。
結局何枠かわからんのかい、と言いたいところだが、ここは公開されていないところを推測(憶測ともいう)したい。自分は基盤B,Cそれぞれ300件弱の国際若手枠があると推測している。なぜか。まず、150件という件数は中途半端である。それはキリが良い悪いの問題ではなく、基盤B,Cの審査区分との兼ね合いの話だ。これらの種目は小区分(正確にはその中に置かれる委員会毎だが、ほぼ一対一の関係が成り立つ)単位で審査されるわけだが、この小区分、だいたい300ぐらいある。仮に150件とか200件だと、小区分毎に国際若手枠があったりなかったりする訳だが、その場合応募数の少ない区分には枠を付与しない、みたいな対応が予想される。
応募数の少ない区分というと大体応募件数が20件前後以下、採択件数が5件以下ぐらいの区分になる。ではそのようなマイナー区分で国際若手枠は付与されているのか?どうやらそれがされていそうなのである。あまり具体的なことを書くと中傷みたいなことになるので例はあげないが、採択件数5件ぐらいの区分の採択者をKAKEN — 研究課題をさがすで調べると、職位が准教授クラス以下で、業績(ここでは論文に限る)が20本あるかないか、その業績も内容はよくわからんが、雑誌は明らかなすごい雑誌ではない、みたいな方がちらほら。申請書の中身はわからないが、同じ区分の採択者と比べても明らかに不利そうな人が採択されている。とするとマイナーな区分にも枠は用意されているものと思われるので、各区分に1枠ずつが配分されているのでは?
もしそうだとすると、マイナーな区分の若手はめちゃくちゃ有利である。そもそも20件の応募があったとして、採択枠が1件増えるだけで採択率は5%上昇する。しかもその多くはシニアの教授クラスであり、応募者のうち若手に該当するのは4,5人といったところ。シニアを含んだ20人のうちの上位5人に入るのは難しくとも、若手5人の中で1番になれば国際若手枠で採用される可能性がある、と考えるとチャンスがありそうじゃないか?
先に触れた40歳未満の種目別採択状況を見ると、40歳未満の研究者の2025年基盤B採択率は驚異の38.5%である。なんと基盤Cよりも高く、採択率42.7%の若手研究と大差ない。もちろん種目毎に母集団が全く違うので、単純に採択率だけでどちらが採択されやすいかを論じることはできない。とはいえ、38.5%もあるならいけそうな気がする、という人は多かろう。
若手のみんな、基盤Bに応募しようぜ。
そしたら応募者の減った基盤Cに私が出します。
改めてノースサファリサッポロ
数年前に下書きとして書いて結局投稿しなかった記事を今更投稿した。
上の記事を今更投稿した理由には2025年2月現在ノースサファリサッポロが大炎上中なためである*1。炎上中の施設に対して傷口に塩を塗るような便乗の仕方はクソだなと思いつつ、やはり自分は間違ってなかった的な安心感を感じる。
さて、大炎上中のノースサファリサッポロだが、現在問題とされているのは「無許可建設」である。散々ニュースで報じられているのでわざわざ説明するほどのことではないのだが、そもそもノースサファリサッポロの所在地は札幌市の市街化調整区域にあり、その区域内では建設に自治体の許可が必要となる。その許可を得ずに勝手に建設していたのが、開園から20年経って表在化して炎上している、という経緯である。
しかしながら、個人的には実は「無許可建設」を争点にするというのは札幌市の裏技的な手法であり、実は本当の問題点は他にあるのではないかと妄想している。
今回の事例では札幌市が撤去を前提としたかなり強い態度を示している。しかし、仮に存続を前提とするならもう少し柔軟な対応も可能なはずである。具体例を挙げれば、福岡の屋台が近いだろうか*2。屋台は公道で営業されているが、公道は原則的に営業活動ができない。道は通行のために存在しているのであり、それを妨げるようなことをしているのだから当たり前と言えば当たり前である。さらに言えば屋台のルーツは戦後の闇市とされており、そもそもが違法な状態からスタートしている。1994年時点でもほとんどの屋台が何らかの違反状態にあったとされる。それでも戦後の混乱期から平成に至るまで、規模を縮小しながらとはいえ、様々な議論と交渉を経て屋台は存続している。それは屋台の違法性や問題点を踏まえても文化的価値などの公益性が認められてきたためである。行政もその時その時で問題点をあげながらも、改善を求めるに止まり、完全な撤収には至っていない。
ノースサファリサッポロに対する札幌市の対応も福岡市の屋台に対するそれに似たものがある。「無許可建設」は20年以上前から継続している話だし、さらに言えば当初は食品衛生法の定める営業許可を取得していなかった、動物愛護法の定める動物取扱業の登録を受けていなかった等々、違反の数は一つ二つではない。しかし、札幌市は個別の違反は指摘せど、「閉園命令」のような強い態度は取ってこなかった。
実のところ、法律を完全に把握して何の違反もないで事業を営むというのは余程のことがなければ無理であり、大概は何らかの軽微な違反がある。それに対して、都度都度事業者に改善してもらうというのが行政のやり方である。良し悪しはともかく。だって車運転してたら速度超過してる車なんて山ほどいるし、狂犬病予防法のことなんか知らずに狂犬病の予防接種ちゃんとしてない犬の飼い主なんて腐るほどいるでしょ。みんなが完全にルールを守れるわけじゃないし、ルール違反だから即監獄行きみたいなことはできないのですよ。
じゃあなんで札幌市が「改善させる」という柔軟な方針ではなく、「閉園を迫る」という強固な姿勢を取っているかというと、背景に上で示した、下書きのまま投稿していなかった記事にある、動物愛護的な問題点があるのではと思っている。
動物愛護的な観点から見た時のノースサファリサッポロの個別の問題点は既に自分もある程度書いたし、その後の問題のある事例も白日の元に晒されているのでここでは触れない。論点は、動物愛護的な観点から問題のある事業者に対し、行政が何をできるか?という点である。答えから言えば、ほとんど何もできない。動物愛護を目的としてできたのがいわゆる動物愛護法だが、動物愛護法違反で罰則があるのはほぼ次の二点のみである*3。一つは動物虐待。もう一つが登録関連。
前者は分かりやすいが、意外と範囲が狭い。動物愛護法の動物虐待に関する条文は次の第四十四条*4。
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
法律の文章というのはややこしいので簡単に説明するが、まず動物を殺したり傷つけたりすると罰せられる。他に餌をやらない、ケージを掃除しないなど、適切な飼育を行わない場合(専門用語でネグレクトと呼ばれる)も虐待として罰せられる。また、最近の改正で飼育していた動物を捨てるとこれも虐待ということになった。これらの虐待行為について、対象となる動物は第4項に挙げられた動物。「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」については飼育の有無を問わず、傷つけるなどの行為を行えば虐待に該当し、他の「哺乳類、鳥類又は爬虫類」については飼育されている場合のみ傷つけるとか捨てるとかすると虐待に該当する。
では話をノースサファリサッポロに戻し、ノースサファリサッポロが動物愛護法の定める虐待に該当する行為をしていたか考えてみる。ノースサファリサッポロの不適切な点はいくつもある訳だが、例として「アザラシと泊まれるコテージ」を考えてみる。
このコテージは宿泊中ずっとアザラシを観察できるという触れ込みだったようだが、明らかにプールが狭いし、そもそも常に人間に観察されているというのはストレスがかかると推測される。ではそれが動物愛護法で言うところの虐待に相当するかと言うと、殺したり傷つけているとは言い難いし、給餌をしていなかった訳ではないし、飼育密度が高いとは言えないし、排泄物まみれだった訳でもない。つまり、法的には問題ないという扱いになってしまう訳である。そうなってしまうと、まず虐待という観点から行政がノースサファリサッポロに対して何らかの処分を下すのは困難となる。
次に登録の観点から考えてみる。そもそも動物を使って何らかの商売をしようと思い場合は動物取扱業の登録というものを行わなければならない*5。無登録で動物園を営業するのは違法だし、さらに言えばペットの販売なんかも登録が必要となる。この登録は動物園のような施設の運営には必須なので、ノースサファリサッポロも開園当初こそ無登録でスタートしているが、流石にその後登録している。一方、行政は登録の希望に対して、拒否したり、登録を取消したりすることができる。この処分は事実上の営業不許可に当たるので、登録の可否は動物園側からすると死活問題であり、拒否・取消処分は行政側からすると強力なカードになり得る。
ではこのような処分がどれくらい実施されているのか。少し古いデータにはなるが、箕輪の調査によると2013年から2018年の間に取消処分に至ったのはわずか1件である*6。上の文献でも説明されていることだが、行政にとって不利益処分を下すのは簡単なことではなく、余程のことがなければ取消処分には至らない。とすると、登録関連から動物愛護法違反としてノースサファリサッポロに対して行政が何らかの権限を行使すると言うのも難しそうである。
アザラシの一例も含め、ノースサファリサッポロの運営は(法的な意味ではなく倫理的な意味での)動物愛護に反するものであり、動物愛護団体から批判されていたことは想像に難くない。動物愛護団体は基本的に動物園に否定的な場合が多いと思われるが、特にノースサファリサッポロは動物愛護団体から厳しく批判されていたと考えられる*7。札幌市はそういった団体・個人からも通報を受けていたのではと推測するが、上で書いたように動物愛護法からノースサファリサッポロに対し不利益処分を下すのは難しい。そこで、通報を受けた動物愛護の問題を争点にするのではなく、「無許可建設」を争点にして都市計画法を根拠に不利益処分を宣告したのでは?と言うのが個人的な予想である。まぁ、実際のところはわからないんだけど。
*2:嶋田 暁文, 福岡市における屋台と政治・行政(上) ― その過去と現在 ―, 自治総研, 2013, 39 巻, 419 号, p. 1-38, 公開日 2022/08/22, Online ISSN 2435-8738, Print ISSN 0910-2744, https://doi.org/10.34559/jichisoken.39.419_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jichisoken/39/419/39_1/_article/-char/ja
*3:他にも特定動物とか多頭飼育もあるけど今回の事例とはあまり関係ないので割愛
*4:https://laws.e-gov.go.jp/law/348AC1000000105/
*5:正確には第一種動物取扱業。第一種と言うからには第二種もある訳だが、違いは営利目的の有無。
*6:箕輪 さくら, 動物取扱業規制の実施過程に関する考察, 自治総研, 2022, 48 巻, 527 号, p. 1-29, 公開日 2022/09/15, Online ISSN 2435-8738, Print ISSN 0910-2744, https://doi.org/10.34559/jichisoken.48.527_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jichisoken/48/527/48_1/_article/-char/ja
科研費の申請には36万円の研究費が必要という話
そうか、これは盲点だった。「科学研究費補助金」は研究基盤がある前提で補助するという建前だから、科研費申請資格として、研究機関が「1人当たり年間36万円以上の研究費」を自前で持っていることが条件になっているんだった。運営費交付金を削減した結果、この建前が崩れているじゃないか。 https://t.co/vJ4SA4HXVO
— はじめまして 平岡です (@HiraokaYasushi) 2025年2月25日
もうすぐ(というか明日)科研費、特に基盤・若手あたりの主要な種目の採択通知があるため、SNSでは科研費関連の話題が盛り上がりつつある。そんな中見かけたのが上のツイート*1である。
科研費は誰でも応募できるわけではなく、条件を満たした研究機関に所属する研究者しか応募できない。ところが多くの大学は運営費交付金という大学の予算でも基礎にあたる部分の収入を減らされまくった結果、科研費応募に必要なを満たすための「(競争的資金を除いた)研究費が一人当たり36万円」という条件を満たせなくなっている。というのが上のツイートの趣旨であると思われる。
しかしこれは誤解である。そもそもこの36万円というのがどこから来てるかというと、これは「 科学研究費補助金取扱規程第2条第1項第1号及び第4号並びに同条第4項の機関の指定に関する要項」*2の第3条第6項に由来し、
外部資金を除いた当該申請機関全体の一人当たりの研究費(申請の前年度の決算額とする。)が年間36万円以上であること。なお、申請年度に新設された申請機関については、申請年度の予算額における一人当たりの研究費が年間36万円以上であること。
という条文から来ている。なるほどこれを読むと確かに36万円の研究費がないといけないように思える。しかしこの要項の第2条にはこうある。
規程第2条第1項第1号に規定する大学共同利用機関法人又は同項第4号に規定する機関(以下「学術研究機関」という。)として、その全部又は一部について指定を受けようとする機関(以下「申請機関」という。)の長は、それぞれ様式1-1又は様式1-2による申請書に、次に掲げる事項を記載して文部科学大臣に提出するものとする。
何言ってんのかよくわからんが、つまるところ36万円の研究費が必要なのは「 規程第2条第1項第1号に規定する大学共同利用機関法人又は同項第4号に規定する機関」が申請する場合の話である。では「 規程第2条第1項第1号に規定する大学共同利用機関法人又は同項第4号に規定する機関」というのが何かというと、 科学研究費補助金取扱規程*3がここでいう「規程」のことであり、その第2条第1項は次の通りである。
この規程において「研究機関」とは、学術研究を行う機関であつて、次に掲げるものをいう。
一 大学及び大学共同利用機関(別に定めるところにより文部科学大臣が指定する大学共同利用機関法人が設置する大学共同利用機関にあつては、当該大学共同利用機関法人とする。)
二 文部科学省の施設等機関のうち学術研究を行うもの
三 高等専門学校
四 国若しくは地方公共団体の設置する研究所その他の機関、特別の法律により設立された法人若しくは当該法人の設置する研究所その他の機関、国際連合大学の研究所その他の機関(国内に設置されるものに限る。)又は一般社団法人若しくは一般財団法人のうち学術研究を行うものとして別に定めるところにより文部科学大臣が指定するもの
これを踏まえると36万円の話というのは「文部科学大臣が指定する大学共同利用機関法人が設置する大学共同利用機関」と「 国若しくは地方公共団体の設置する研究所(略)のうち学術研究を行うものとして別に定めるところにより文部科学大臣が指定するもの」に当てはまる場合の条件であり、要は大学や高専に所属する研究者には関係のない話である。
なので大学教員の皆さん、皆さんは年間研究費が36万円に満たなくとも申請できるのでご安心ください*4。
なんてことを考えなくていいぐらいの金額は運営費交付金として配分してください…
*1:私は老害なので「ポスト」などというクソださい呼び方は絶対にしない。
*2:科学研究費補助金取扱規程第2条第1項第1号及び第4号並びに同条第4項の機関の指定に関する要項:文部科学省
*4:ちなみに上のツイートの引用元のツイートの先生はそれを理解されていると思うが、引用先の方々は誤解されている方が多い模様。https://x.com/kobe_para/status/1894363008337678704?utm_source=yjrealtime&utm_medium=search
下書きよりノースサファリサッポロ
以下の記事は数年前にノースサファリサッポロについて書こうと思って、下書きを書いて結局投稿しなかった記事を(原則)そのまま流すものです。
自己と非自己とCRISPR
もはや一年以上前の話だが、前々回と前回でCRISPR-Casシステムの生理的な役割について書いた。今回の記事ではPAM配列の役割と自己非自己の区別について書く。早く本題に入れという人は1. 本題から読んでください。

前々回の記事
前回の記事
0. 前置き
これまでの記事でも説明なく書いたが、CRISPR-Casは原核生物の持つ「免疫系」、それも「獲得免疫系」という説明をされることが多い。そもそも生物は他の生物とのせめぎ合いの中で発展してきた長い歴史を持っており、免疫系とは他の生物と自分を区別し、他の生物からの侵略を防ぐシステムと説明される。免疫系の歴史は古く、動物と植物が一部の防御機構を共有している事から、我々人類がまだ単細胞生物だった頃には既に何らかの防御システムを持っていたと考えられている。ヒトに限定して話を進めると、免疫系の仕組みは大きく自然免疫系と獲得免疫系に分類できる*1。大雑把に言えば、自然免疫系は「何となく怪しいやつを片っ端からやっつけてしまうシステム」であり、獲得免疫系は「既に悪いやつだと知っているやつに限ってやっつけてしまうシステム」である。
この自然免疫系と獲得免疫系によって悪いやつを排除してしまう時に大事なのが、うっかり味方をやっつけてしまわないようにすることである。これは自己と非自己を区別することによって成し遂げられる。例えば自然免疫系ではパターン認識受容体と呼ばれる分子が存在し、自分の細胞には存在しないが病原体は持っている分子を検出することができる。代表例がTLR4で、この分子は細菌に特有の分子であるLPSを検出する。TLR4がLPSを検出するとそれを持っている侵入者を殺してしまうシステムが働き、結果的に細菌が殺されてしまう。また、獲得免疫系においては抗体が武器となって侵入者から自らの細胞を守る役割を担う*2。獲得免疫系には過去に感染してきた侵入者を記憶する仕組みがあり、獲得免疫系において産生される抗体は記憶済みの侵入者が持つ分子にだけくっつく。抗体がくっついた侵入者は何らかの方法で無力化されるため、結果的に抗体は過去に遭遇した侵入者を特異的に無力化することになる。そのため、自らを攻撃してしまうことはない*3。
1. 本題
さて、若干長々と前置きを書いたが、言いたいことは単純だ。我々の持つ免疫系は自己と非自己を区別することができる。そうしないとうっかり自分の細胞を自分で殺してしまうからだ。ではCRISPR-Casは自己と非自己を区別できるか?答えは「Yes」だ。じゃあどうやって?それが今回の本題。
そもそもCRISPR-Casシステムは侵入してきた核酸(DNAやRNA)を切断する仕組みだ。そして切断の対象となる配列はスペーサーと同一の核酸配列である。だがちょっと待ってほしい。スペーサー配列と同じ配列が切断されてしまうのならスペーサー配列自身も切断の対象となってしまう。また、スペーサー配列と相同な配列がうっかり自分のゲノムDNAにもあったらやはりそこで切断されてしまう。それは困る。そこでCRISPR-Casシステムにおいても自己非自己、すなわち自分の核酸配列と侵入してきた外来の核酸を区別する必要があり、そのために用いられるのがプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる2-5 bpの短い配列である。
今で言うところのPAMが発見されたのは、CRISPR-CasシステムがMGEに対する防御システムではないかと言われ始めた頃である。2005年頃、まずCRISPRのスペーサーがファージのゲノム配列から獲得されたものであることが知られるようになる。今ではこのスペーサーの由来となる配列は、スペーサーの源になる配列という意味でプロトスペーサーと呼ばれるが、研究者たちはこのプロトスペーサーとその前後の配列を並べてみる。そこでプロトスペーサーの近傍の5 bpの領域がACAAA、GTAAA、ATAAAなどの特定の配列に偏っていることに気づいた。しかしながら、この時はこの保存された5bpのモチーフ*4が、何の役割を持つかまではわからなかった。
↑(今で言うところの)PAMを初めて発見した論文
この謎のモチーフにPAMという略称が付けられたのは、CRISPR-CasがMGEに対する防御システムであることが証明された後の2009年。ここで下の論文の筆者らはPAMの配列がスペーサの取り込みに極性を与えている、つまり、PAMの向きとスペーサーとして取り込まれる配列の向きが常に一致することを示した。また、PAMがCRISPR-Casのシステムによって異なることもこの時点で明らかにされる。つまり、CRISPR-Casと一口に言っても連鎖球菌のものと大腸菌のもので全然機構が異なる訳だが、同じように一口にPAMといってもCRISPR-Casが異なればPAMも違う。
↑PAMを命名した論文
その後何やかんやあって、CRISPRがadaptationの過程で外来遺伝子を取り込む際にはPAMが近くにある配列を選択的に切断して取り込むこと、CRISPRを持つ原核生物のゲノム上にあるスペーサー配列は近くにPAMが存在しないためにCRISPR-Casによって切断されないことなどが明らかにされる。また、PAMの存在はCRISPR-Casを応用したゲノム編集を行う際にも制約条件となる。ゲノム編集技術はCRISPR-Casシステムの第三のステップであるinterferenceを利用しているが、この工程においてもCRISPR-CasシステムはPAMが近くにない配列を切断きない。従ってある系を利用してゲノム編集を行う際には、目標とする配列の近くにそのCRISPR-CasシステムのPAMがないとならない。それゆえ、色んなグループがPAMの異なる様々なCRISPR-Casを応用したゲノム編集技術を開発する訳である。PAMの異なる複数の系があれば、そのうち一つぐらいは任意の配列の近傍にあると期待できるのだから。
とはいえ、開発初期はともかく、最近主に使用されている系ではPAMの制約はほとんど取り払われており、あまり気にする事ではないのかもしれない。
2.おまけ
自己と非自己の区別は生物の恒常性維持に重要な役割を果たし、これが破綻すると疾患を引き起こす。この免疫系の破綻は哺乳類においては多発性硬化症のような自己免疫疾患として顕在化するが、CRISPR-Casシステムも哺乳類の免疫系と同様に自己を標的としてしまうことがある。これはself-targetingスペーサーとも呼ばれる現象で、基本的に自分のゲノムを切断して壊してしまうので自身には不利益をもたらす。自己標的型のスペーサーが存在する機構はPAM配列を持つ自分のゲノム配列をうっかり取り込んだり、標的配列を持つ外来遺伝子を排除し切れずにプロファージなどの形でうっかり感染してしまったりしたときなどに生じる。そのままでは不都合なのでスペーサーとして取り込んだ配列に変異が生じたり、スペーサーが抜け落ちたり、Casが機能を失ったりして対処?するらしい。なんともそそっかしい話である。
↑おまけの話はこちらから
↑(真核生物の)免疫系の話は基本的に『免疫生物学』が出典です
オンライン学会の発表の注意点!
若干タイトル詐欺だが、オンライン学会で発表することになったので自分なりにオフラインの学会との違いから発表者としての注意点を考えてまとめてみる。なお、書いてる本人はオンライン学会での発表経験がないし、ZOOMとかも(このご時世にも関わらず)あまり使ってないので悪しからず。
1. アスペクト比について
これは最初に考えたこと。普段口頭発表の時は4:3を使うことが多い。これは普段使うスクリーンのアスペクト比を考えてのことだが、そもそも日本で16:9のスクリーンはまだそこまで多く見ない。従って今までの常識的には4:3の方が汎用性が高かった訳だが、オンライン学会は事情が異なる。普通に考えて参加者の多くはスクリーンに投影などしないし、パソコンのモニターにスライドを映すだろう。デスクトップ用の対角27inchぐらいのモニタであればアスペクト比は4:3でも16:9でも変わらないだろうが、少なくない参加者はラップトップの小さい、16:9のモニタにそのままスライドを映すだろう。この時に4:3だとただでさえ小さいモニタの端を有効に使えない。それを考えると16:9で用意した方が親切ではなかろうか。
また、アスペクト比についてはポスター発表は口頭発表以上に要注意だと思う。国際学会ならともかく、日本国内の学会は縦長のA0ないしB0のポスターを作らせることが多い。しかしである。オンライン学会の場合、参加者のほとんどは16:9にしろ4:3にしろ横長のモニタにポスターを映す可能性が極めて高い。このときにポスターを縦長で作ると、全画面表示だとしても画面のほとんどの面積を有効に使えない。オンライン学会の場合、ポスターの形式は学会によって様々な様だが、どの様な場合も横長に作るべきなのは間違い無いと思われる。できれば口頭発表と同じ理由で16:9で作るのが理想だろう。
2. フォントサイズについて
フォントサイズは口頭発表とポスター発表で今までも学会とは求められることが正反対になると思われる。
口頭発表の場合、フォントサイズは今までより小さくして構わない。大会場のスクリーンに映す場合は後ろの聴衆にも読めるように最低でも20pt程度の大きさが必要だが、オンライン学会の場合、聴衆はモニタのすぐそばにいる。多少フォントサイズが小さくても問題はないはずなので、20pt未満のサイズでも問題にはならないはず。
ポスター発表の場合は逆。ポスターサイズの紙で発表する場合はジャンプ率を設定してあえて小さい文字を使い、興味がある人だけが寄ってそれを読めばよい。しかしオンライン学会では小さい文字を読むためにはわざわざ拡大するという手間をかけなければならない。自分はそんな面倒なことをしたくないので、ラップトップの小さいモニタでも(老眼でなければ)読める
ぐらいの大きさのフォントを使うべきと考える。仮にパワポのデフォルトの16:9のスライドサイズを想定すれば、14pt前後が目安だろうか。もちろんこれはスライドサイズ次第なので、スライドサイズの設定が大きい場合はより大きいフォントサイズが必要になろう。
3. 背景色
これは正直正解がまだわからない。
グレーが良いという声もあるみたいだが、経験不足故に理由がよくわからなかった。とりあえず今は白にしてる。
4. マイク
散々言われていることなので改めて書くほどのことではないが、念のため。やはりマイクは外付けのものを用意すべきだろう。デスクトップはそもそも付いていないことも多いし、ラップトップは付いていることが多いものの、内蔵マイクは声がこもって聞こえるように感じる。自分は昔のiPhoneに付属していたイヤホンのマイクを使用しているが、内臓よりはクリアに聞こえる、ような気がする。ベストは専用のマイクやヘッドセットを用意することだろう。
5. パワポで作る発表動画について
学会によってはあらかじめ発表動画を作成して、それをアップロードすることを求める場合がある。これは諸刃の剣である。その場で一発勝負ならなあなあで許されるところもあるし、逆にどんな練習したって完璧な発表をできる人は少ないのでそんなに差がつかない。しかし改めて録画できると準備にかけた時間の違いが露骨に出る。気にしない図太い神経がある人は別だが、そうでないなら納得できるまで撮り直す。幸にしてパワポでスライド毎に録画できる。その場合は録画したいスライドで記録を始めて、終了時に次のスライドへ進まずEscを押して記録を終えること。
また、個人的にはスライド切り替え時の間が長いと、集中が切れる気がする。自分の発表の準備の参考にYoutuberの動画見たりしたが、テンポがよくて、集中が途切れにくい。録画終了時後にナレーションをトリミングできるので、間が長いと感じたらナレーションの終了後の間を切ってしまってもよいと思う。その場合はスライドの切り換えのタイミングも調整すること。音声だけトリミングすると、音声が切れてからスライドの切り換えの間に無駄な時間が流れる。ライブ配信でなければ聴衆は巻き戻して聞き直すこともできるので、テンポは基本的に早い方が良いと思われる。最終提出物がmp4なら動画編集ソフトを使って編集するのも手だが、慣れてない人だと余計な手間がかかるだけの可能性もあり。この辺のノウハウは「パワポ 録画 音声」とかでYoutube検索すると参考になる動画が山ほどある。
徒然なるままに書いたが、こんなところだろうか。他に思いついたことや入手した情報が有れば追記するかも。
↑EarPodsじゃなくてAirPods Proにしたらもっと音声が良くなるんだろうか…(ならなそう)
ワクチンと著作権とCRISPRと
Twitterで面白いツイートを見かけた。
巷で話題のRNAワクチンを接種した人のゲノムDNAが変化することはないし、変わったとしてそこに著作権が生じることはあり得ないのだが、話題をDNA配列と知財の関係性に置き換えて少し考えてみる。
まず、知財といえば著作権の他に特許だとか商標だとかもある。そして特許についてはDNA配列が登録されることは山ほどあって、例えば下のリンクにある名古屋大学のグループによる申請がある。
メンテナンス情報 (Maintenance information) | J-PlatPat/AIPN
この例もそうだが、例えば何かの病気の診断目的で行われるPCR法を開発した場合は、用いられるプライマーやプローブの配列が特許の一部を構成する。また、ちゃんと調べてないので断定はしないが、例のRNAワクチンもおそらくその配列が特許の一部として登録されているものと思われる。もちろん人のゲノムDNA自体が誰かの特許になるという状況は考えにくいのだが。
しかしこれはあくまで特許の話だ。DNA配列に著作権が生じることはあるだろうか?
そもそも著作権とは著作物を保護するための権利と言える。では著作物とは何かといえば、日本の著作権法によれば「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義され、平たくいえば小説や漫画、音楽、演劇、映画、絵画、プログラムなどがこれに含まれる(何事も例外はあるので細かいことは自分で調べてください)。従って最初のところで話題にした「ワクチンによって変化したDNA配列」は思想又は感情を創作的に表現したものとは言い難いためにどう転んでも著作物にはなり得ず、そこに著作権は生じえない訳である。
若干脇道に逸れるが、著作権は"人が"創作したものにしか生じないと考えられる。なぜかと言えばアメリカで実際にそれが争点になった裁判があって、その判例で人以外の動物には著作権が生じないと示されたためである。これはサルの自撮り訴訟という有名な裁判で、カメラを森に設置してサルが半ば偶然に撮影した写真に自らの著作権を主張したフォトグラファーが、人以外の動物に著作権が生じないと主張しサルの自撮りをパブリックドメインとして公開したウィキメディア財団などと争ったもの。詳しい経緯はWikipediaにある。
日本国内では著作権法には明示されていないし、そういう事例があるかわからないが、おそらく同じ見解が示されるのではないだろうか。
さて、話をDNA配列と著作権の関係に戻す。この話題を考えたときに真っ先に頭に浮かんだのが次の論文だ。
CRISPR–Cas encoding of a digital movie into the genomes of a population of living bacteria | Nature
この論文は何をした論文かというと、一言で言えばCRISPRをUSBメモリみたいな情報記録媒体として使うというクレイジー(褒め言葉)なことをやった論文である。まず彼らは静止画のピクセルについて、そのピクセルの位置と輝度をバイナリに置き換えた。それをさらに塩基配列に置き換えると、あるピクセルの位置データと輝度データが1つのスペーサーに記録される。これを全てのピクセルについて行い、各ピクセルのデータをエンコードした合成DNAを用意する。これをCas1-Cas2を持った大腸菌にぶち込むとランダムにいずれかのピクセルの情報を取り込むので、大腸菌の集合体全体で画像データの情報を記録できる。逆に今度はCRISPR座位のDNA配列を片っ端から読むことで、DNA配列のデータから元の画像データをデコードすることができる訳だ。もう少し工夫するとさらに動画も記録できるので、筆者らは映画の元祖とも言うべき馬の走る連続写真をウィキメディア・コモンズから引用して大腸菌に記録させている。
File:Muybridge race horse animated 184px.gif - Wikimedia Commons
さて、ここで記録されたデータはとっくに著作権が切れた、というか著作権という概念があったかなかったか怪しい時代のデータであるため、当然にして著作権は存在しない。しかしである。この大腸菌に保存された動画はなんでもよかった。著作権を有するコンテンツが大腸菌などのCRISPRのDNA配列に保存される可能性も、もはやあると言っても過言ではない訳だ。この手の大腸菌のゲノムDNAを記録媒体にしたり、プログラミングに使ったりする研究が数多く進められている中、DNA配列が著作物を記録する時代も近い、のかもしれない…

